Oriental Herbal Medicine

漢方のおはなし

不思議な薬、漢方薬

 中高齢のペットを診察していると、病気というほどではないけれど、皮膚につやがなくなってきたり、なんとなくだるそうだったり、ちょっと脈が弱くなってきたり…と、人間でいう「不定愁訴」とでも言えるような状態を想像することがあります。臨床検査ではすべて正常値、胸部写真や聴診でも心不全とは言えないような状況、でも、どうも「健康ではなさそう」という状態を把握するのは、現代医学では苦手とする部分です。

 東洋医学では、例えば肝のバランスが崩れると、脾と胃に影響が現れて嘔吐が起こりやすくなる、といった体内の組織機能のバランスでものごとを考えて行きます。このような考え方に立つと、多くの検査を行っても診断がつかないとき、治療へのヒントが見つかることもあります。

 また、さまざまな治療を行っても食欲が出なかったペットに、「気」を高めるための漢方薬を処方して、内服して1時間後に自分から食べだした、ということもありました。一般に「漢方薬はじわじわ効果をあらわしてゆく」と考えられていますが、速効性のこともあるのです。

 現代医学を「臓器を見る医学」とするなら、東洋医学は「個体を見る医学」とでも言うべきでしょうか。長生きのペットが増え、家族とのふれあいがますます親密になる現代では、現代医学の足りない部分を補う必要があります。東洋医学の、犬や猫への応用はまだデータが少ないですが、私たちの仕事の中にも生かせるように努力しています。 

 処方の実際

【ケース1】 俗に「ねこ風邪」と呼ばれている、猫伝染性鼻気管炎やカリシウイルス感染症は、「風邪」と呼ぶにはちょっとキツい病気です。 個人的な想像ですが、北海道ののら猫たちが春になると減っているのは、かなり「ねこ風邪」で死んでしまうからではないかと思います。 口と喉の痛みで、食べることができなくなるので、ワクチンが未接種だったり、猫エイズに感染していたりすると、治すことができないこともあります。 あるロシア人の飼い猫を治療しているときに、桔梗湯という喉の痛みをとる漢方薬をお湯でといて飲ませてもらったら、10分後に少しだけ缶詰を食べたと聞いて、なるほどと思いました。 この薬は、人間の喉がヒリヒリと痛むときに、ゆっくり喉を通すと瞬間的に痛みが和らぐ薬なのです。 すべての猫がこれで食べられるわけではありませんでしたが、半数くらいの猫が桔梗湯の内服してしばらくの間、食事ができました。 ちゃんと栄養をとることができれば、治癒の可能性がだんぜん高まりますので、これは良い処方だと思っています。

【ケース2】 慢性副鼻腔炎のミニダックスフント。 内科的な治療にはなかなか反応が悪く、額の骨に小さい穴を開けて膿を出させる治療をしなければいけないかと思ってました。 何種類かの漢方薬も試しましたが今いち効果が出ませんでした。 筆者(北村)が、花粉アレルギー持ちで、鼻づまりが辛いときに飲んでいたのをヒントに、辛夷清肺湯という薬を処方してみると、副鼻腔に溜まっていた膿の出ること出ること。 おそらくいつも鼻がボーっとしているような状態で元気がなかったのが、非常にすっきりと改善に向かいました。 (ただし、この犬の場合、症状は緩和されましたが、副鼻腔炎そのものは完治はしていません。)

【その他】 40種類の漢方薬(エキス製剤)を常備していますが、難しい症例では本当に悩みます。 蛋白漏出性腎疾患の犬で柴苓湯、心臓性喘息の犬で木防巳湯、室内の乾燥などによる気道炎に麦門冬湯…、など、教科書的な処方も用いていますが、「効いているのか、効いていないのか」というアセスメントと、体質による副反応(胃腸障害など)の予測など、意外と難しいなと感じています。

 エキス製剤いろいろ


 北村・日比の両獣医師は、「系統中医学講座」(仙道誠四郎先生)を受講・修了しました。 

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